介護福祉の会計・財務レポート「社会福祉法人における内部統制Vol.04」
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
業務レベルの内部統制(収益管理)
- 介護事業所の皆様方のご努力のもと、一時の状況をなんとか乗り切れたと思う。これからは、コロナと共存していく環境の中で、実際のサービス提供及び管理体制の強化が望まれるところである。
- 第4回では、 法人内の管理業務のうち、収益管理について解説する。
収益管理における内部統制
法人内において、介護保険の事業収入等に関する業務の一般的な流れは、下記のとおりである。
内部統制の観点から、「正しい業績把握」、「適切な請求(介護保険制度)」、「資産の保全(未収金管理)」、「業務の有効性及び効率性」に照らして業務体制の整備が必要となる。
上記の①から⑤については、内部統制の調査において以下のような点が散見される。
①基礎情報の登録
- 契約書や、ケアプランへの同意の署名・押印が、未入手のままである。
- 利用者の個人別ファイルに、サービス提供表、ケアプラン、モニタリング記録、カンファレンス記録、利用者の同意書等が一式として整理されていない。
実地指導等において不備が発覚することが多いが、通常の業務において、これらを放置しない仕組みの整備が必要である。
②利用情報の入力
- 入所系サービスにおいて、業務日報と外泊届・入院届出のチェック、ケアプランと訪問記録が、上長の確認がないまま請求担当に回付されている。
- サービス提供実績記録等に利用者のサインがないことを、上長がチェックしていない。
③保険請求・利用者請求の実施
- 現場で、介護請求システムに入力する場合、法人本部や業務部等がチェックしていない、あるいは、法人本部・業務部等が入力後、現場で確認していない等、相互の連携がないために、誤請求が発生している。
- 利用者が消耗品を使用したり、理美容や病院受診等のサービスを利用した場合に、それぞれの管理簿から介護保険外利用申込書を作成しているが、利用者への請求もれのチェックがない。
④ 保険請求・利用者請求の収益計上
- 過誤の返還、返戻があった場合に、その原因について、経理担当者からの現場への確認はなく、全体での情報の共有、再発の防止に寄与できていない。
- 返戻再請求や請求保留について、現場から経理担当への連絡が十分でなく、介護請求システムと会計記録との不一致を確認していない(発生ベースで計上している場合)。
このようなケースでは、必要情報を一式として、書式化し現場から請求担当へ提出する体制の整備が必要となる。
⑤未収金管理
- 経理担当が利用者の未入金情報を現場に提供していないため、現場での確認ができていない。
- 利用者未収金の発生・回収状況を一覧できる資料がない。
- 利用者への未収が長期化した場合、本部への報告ルールがない。
収益管理と言えば、経理部門だけの問題のように聞こえるかもしれないが、実際には、①基礎情報の登録のところからスタートし綿々と繋がっている。つまり、部門間の連携が欠かせず、それぞれの部門の上長がしっかりと関わって確立されるものである。
また、収益管理業務において、手作業による場合、処理洩れ・処理誤りが生じることは避けられない。法人によっては対応策を検討し、取り組んでいる事業所もあるが、未着手の法人が多い。
さらに、このような手作業やアナログでの管理を、法人本部で把握していないことが多い。これらの管理業務において、整理、標準化されていれば、業務が効率的に実施されるだろう。
レポートの執筆者
田島一志(たじま かずし)
日本経営ウィル税理士法人 公認会計士・税理士
大手監査法人で、上場会社や医療法人の監査、財務コンサルティング、IPO支援等を、公的機関で中小企業の再生支援に従事したあと、2017年に日本経営ウィル税理士法人に入社。現在、社会福祉法人での会計指導、内部統制支援を担当する。
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